トマトについて 文:ジョン・ワーウィッカー(1995)

トマトは,これまでの考え方では別個の分野と考えられる分野──映画製作,タイポグラフィ,デザイン(環境デザイン,グラフィックデザイン,立体デザインなど),音楽,絵画,著述,ニューメディア,彫刻など──を同時にこなしている新しい形のスタジオだと考えている人が多いが,これは間違いである。これらの分野の活動はほんのこの30〜40年の間に細分化されたもので,バウハウスなどの団体やモホリ-ナギなどのアーティストはさまざまな文脈でアイディアや造形を表現していたのだ。

トマトは現代の文化的状況に対して前人が行ったような全体論的アプローチを試みている。現在,トマトは10人のメンバーからなるが,これらのメンバーはみなそれぞれ異なるさまざまな形での個人的表現を試みている。トマトにおいてはさまざまなプロジェクトをこれらのメンバーのさまざまな組み合わせにより企画・実施しているが,その際にお互いの『旅』(それはそれぞれの精神や表現が変容していく過程と解釈できる)を可能にし,それを支援することがトマトの目的である。したがって,トマトでは必然的にそれぞれのメンバーが自分の個人的経験に基づき造形表現するだけでなく,その造形の背景をなす概念的枠組みについても同様に取り組むことを意味する。トマトは1991年2月にスティーヴ・ベイカー,ダーク・ヴァン・ドゥーレン,カール・ハイド,リチャード・スミス,サイモン・テイラー,ジョン・ワーウィッカー,グラハム・ウッドが共同で設立したスタジオである。創立の6ヵ月後にグレッグ・ルードが加わり,それから昨年ジェイソン・ケッジリーとディラン・ケンドルが加わった。その一方で,トマトのメンバー,カールとリチャードはDJのダレン・エマーソンとともにテクノ・バンド「アンダーワールド」を結成した。このグループは,イギリスで最も人気があり,最も影響力のあるバンドの一つで,彼らの最初のアルバム"dubnobasswithmyheadman"はイギリスだけで7万枚売れ,音楽批評家からも絶賛された。

トマトの仕事の基盤をなしているのは,メンバー個個の造形,構造,言語の実験である。われわれは与えられたどんな状況に対してのみならず,作業の方法とモデル化についても個々の「インクをにじませること」(実際の制作についても彼らは個々のインクを作品ににじませている)をお互いに奨励している。われわれがクライアントの依頼に応じて制作する作品はこの実験の手段であることが多い。こうした作品から得られる収入はメンバーの給与,スタジオ維持費のほか,メンバーの個人的プロジェクト,トマトとしてのプロジェクトの費用を賄っている。徐々にではあるが,これらのプロジェクトが経済的な意味,そして美学的意味双方で,トマトの中心的活動になりつつある。これと並行して,われわれは世界各地におけるプロジェクトにも参画している。旅をしながら仕事をするという経験が再びわれわれのグループにフィードバックされ,これが新しい仕事を促進する触媒の働きをしている。昨年,われわれはオーストリア,ニュージーランド,日本,アメリカ,ドイツ,アイスランド,オランダ,ノルウェイ,ブラジル,デンマーク,ベルギーで仕事をしてきた。

われわれは作品を制作する時いつも,作品はいろいろ異なる方法で表現できると考えている。われわれの場合,最終的結果は直接プロジェクトに参画しているメンバーにプロジェクトに直接参画していないスタジオにいるめんばーが加わる討議の結果として得られる。ある作品の作者が1人であるということは滅多にない。われわれの作品はわれわれのスタジオのエネルギーが結集したものである。言い換えると,われわれのスタジオでは,メンバーの一人ひとりが常に新しい表現と造形を見出そうと努力している。トマトが他のクリエイティヴ・グループと最も違う点はこの点だろう。われわれはあるプロジェクトについてのアイディアをそのプロジェクトの分野の中から発掘しようとはしない。例えば「mmm......スカイスクレイパー・アイ・ラブ・ユー」と題する本のタイポグラフィック・デザインは伝統的なタイポグラフィックな造形を持つと同時に絵画,映画,ミュージック・コンクレート(音楽的視覚詩)などの要素も持っている。この本には連続的な筋はなく,文章は溢れ出るイメージに過ぎない。トマトのこのような柔軟性により,われわれは同時にいろいろ異なるプロジェクトに参画することができる。われわれは現在,この夏グラスゴーで開催される,産業革命以前の世界とポスト・リニア世界におけるコミュニティの役割変化に冠する3時間にわたるパフォーマンス「激流」のための音楽とヴィデオ制作や,サッカー界のスーパースター,ブラジルのロマーリオに関する1時間のドキュメンタリーなどに取り組んでいる。また,イギリスにおけるMTVのクリエイティヴ・コンサルタントを務めることになっている。さらに,この夏開始されるブリティッシュ・レイルのキャンペーン,コクトー・ツインズのための16分のフィルムのアート・ディレクション,ドイツの建築雑誌でのトマトとその関係者についての特集のエディトリアル・デザイン,いくつかの放送局のデザインなどに取り組んでいる。

トマトにはプランというものはない。トマトにおいて重要なのは概念的空間である。個々のメンバーは,ピラミッド形の組織の外で仕事をし,お互いの希望やイデオロギーを尊重するというトマトの仕事の仕方を信じてトマトとかかわっている。われわれは互いに愛すればこそ,一緒に仕事ができるのである。

(文:ジョン・ワーウィッカー IDEA No. 252 特集「ハイパー・デザイン・ユニット トマト」1995年より)

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