アイデア No.338 特集ポスト・ポップ・グラフィックス イントロダクション

簡単な画像操作と,豊富なスタイル・テンプレートよって民主化されたデザイン工学によって,街中からネットまで私たちの日常を覆うグラフィックイメージはその精妙さを増している。
使えるツールの性能やライブラリの充実が,そのまま「いいデザイン」に結びつくわけではない。しかしテクノロジーの発展が現代のイメージ生産にある一定の水準向上をもたらしていることは否定できない。

均整のとれた構成,過去の様式の引用,クリアなフォトイメージ,丁寧なタイポグラフィ...。そういったもので組み上げられたソツのないデザインがあふれている。しかし,システムや資本の周到なコントロールのもとに提示されたその肌理はあまりにスムースで,どこか精気を欠いている。

そのスムースなメディアの界面を飛び出して,目を引きつけ,心を楽しませ,身体をふるわせ,対話を生み出すような同時代的グラフィックの可能性はどこにあるのだろうか。本号ではそのような衝動や契機に満ちたデザイナー,イラストレーター,アーティストたちとその企てを紹介していきたい。

そのストラテジーや生産方法はさまざまだ。根源的なかたちや色彩のなかから,身体の痕跡から,いくつかの文脈が交わる混成の火花から,マテリアルとピクセルのあいだから,フィギュラティブなドローイングから,素通りをゆるさないグラフィックが浮かび上がる。

ここで「ポップ」という言葉を使ったのは,情報の構造が大きく転換して「ポピュラー」というくくりが失効したいまだからこそ,かつての「マスメディアと大衆社会」期にこの語が帯びた侮蔑的な響きを無くし,あらためてポジティブに捉え直せるのではないかというくらいの思いつきだ。その理屈抜きの楽しさや面白さ,文脈にしばられない強さの感覚が,私たちの理屈づくめのデザインにはちょっと足りない。

(アイデアNo.338 イントロダクションより)