COLUMN



 

エシロール・グラフィックアート月間 「MADE IN JAPAN」レポート

2017.03.17


2016年11月19日から2017年1月31日までフランスのイゼール県エシロールにおいて,フランスで活動するベテランデザイナー,ミシェル・ブーヴェとキュレーター,ブランシュ・アルメラのディレクションのもと,現代日本のグラフィックデザインを複数の施設で多角的に紹介するイベントが開催され,注目を集めた。

エシロールはフランスの南東部,1968年冬期オリンピックの舞台ともなったグルノーブル市の近くにあり,アルプスの岩山に囲まれた美しい土地である。同市のグラフィックアートセンターは1990年の開館以来,2年ごとに大型展覧会「グラフィックアート月間」を行ってきた。今回,旧市役所の建物に同センターがリニューアルオープンする記念すべきタイミングにあたり,日本を名誉招待国に迎えた大型プログラム「MADE IN JAPAN」が開催された。

プログラムの中核をなすのが同センターを会場とし,ポスター,小型印刷物,ブックデザインを中心に現代日本の代表的なデザイナーの実践を紹介する「アイ・ラブ・ジャパン:グラフィックデザインと現代」である。往時を偲ばせるクラシックさとモダンさが同居する会場で,われわれのよく知る数多くの作品が展示され,現地のみならずフランスの各地から集まってきたオーディエンスで賑わった。「MADE IN JAPAN」では市内各地の会場で,サテライトというよりはそれぞれにメインといえる展示が行われた。同市内のジェオ・シャルル美術館では亀倉雄策,田中一光,福田繁雄といったデザイナーのポスターを展示する「日本:ポスターの巨匠たち」が,文化センターであるのムーラン・ド・ヴィランクールでは現代日本の雑誌を紹介する「東京の雑誌」と,60年代以降の日本の写真集を紹介する「光と影:日本の写真集1965-2016」,および弊誌「アイデア」を紹介する特別展示が行われた。さらに,本プログラムのメインヴィジュアルを制作した永井一正の「LIFE」シリーズの展示が修道院の遺構を利用したドフィノワ博物館で行われた。

以上のようなメイン会場と同様に興味深かったのがフランス国内を中心としたデザインスクールの学生による作品展示であった。いずれも「日本」をテーマにした制作で,「東京の雑誌」では日本をテーマにした雑誌表紙が,また市内の商業施設や図書館でも学生ポスターの展示が行われ,現代の「日本」がどのようなイメージとともに受容されているのかが垣間見られる内容であった。

グラフィックアートセンターの公式落成記念式典を兼ねて開催された11月19日のオープニングセレモニーには450人を超えるVIP,メディア,参加者で賑わい,日本からもU.G.サトー,永井裕明,草谷隆文,酒井博子らが出席した。また,翌20日には日本映画の予告篇を集めた映像プログラムや,U.G.サトー,本誌編集長らによる講演会が行われた。

第2次大戦後,グラフィックデザインにおける国際的なスタンダードを発揮してきたのが英語圏あるいはドイツ語圏の文化であった。その一方で,大きな芸術の歴史を持つフランス語圏のデザインには,それらに回収されない非グローバル的な豊かさ,システム的な側面ではないグラフィックの美学がある。本展はそのような視線が現代日本のデザインがどのように見えているのかを示すと共に,日本のデザインがグローバルに提示できる価値について示唆を与えてくれるものになったと言えよう。