IDEA magazine391
2020/10
オルタナティブ・リアリティ 空想と現実を交差する,危機の時代のデザインと想像力

IDEA No.391
Published: 2020/10
Price: 定価3,111円/2,829+tax jp yen
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オルタナティブ・リアリティ
空想と現実を交差する,危機の時代のデザインと想像力

企画・構成:アイデア編集部
デザイン:ラボラトリーズ

世界的なパンデミックにより,私たちの日常生活における行動やコミュニケーションはいまもなお変更を強いられています。多くのデザイナーが活動休止を余儀なくされるような事態は,現在のグラフィックデザインが資本主義経済と表裏一体のものとして発展してきた事実や,それ以降のデザインの実践や議論が根づかない各国の環境を前景化させているといえるでしょう。
 本特集では,前半部分を「Phantom Spoon パンデミックの姿」と題し,パンデミックにより中止・無期延期となった展覧会やイベントの広報物を各国のデザイナーから募り,誌面に幻のデザインプロジェクトとして紹介。それぞれのグラフィックを中止にあたる状況や制作時のストーリーと共に紹介することで,世界的なロックダウンでうまれた空白の時間のビジュアル・アーカイブを作成します。後半部分では,「データジャーナリズムとデザイン」をテーマに,ニュースメディアにおけるインフォメーション・グラフィックスについて,各国の報道紙デザイン部に取材。データジャーナリズムとデザインのあり方を考えていきます。あり得たかもしれない現実と,事実(だと思われているもの)に基づく表現という異なる軸のデザイン表現を並列することで,危機の時代のパラレルなデザイン表現を考えていきます。

I
Phantom Spoon パンデミックの姿

協力:アバケ,ジョン・スエダ

新型コロナウイルスによるパンデミックは,私たちの自由な移動を制限し,世界の交通・物流を麻痺させた。多くの人々が集う公演やイベント,展覧会が中止に追いやられ,作品や書籍,物品などの輸送を伴う展示活動なども各国で中止や延期となった。そんな未曾有の事態のなか,ロンドンを拠点とするデザインチーム,アバケが思いついたのが,本企画のアイデアだ。
 彼らからの提案を受け,本誌編集部とデザイナーのジョン・スエダは周辺のデザイナーたちにプロジェクトへの参加を呼びかけるメールを送付。最終的に世界各国から44組のデザイナー,キュレーターが関わるポスターやチラシ,広報物のデザインが寄稿された。本章ではそれらを誌面上の「幻(Phantom)」として浮かび上がらせる。

Bibliomania/田部井美奈/No Ideas/Polymode/イネス・コックス/フアン・パブロ・ラハール/シャルル・マゼ&コリーヌ・スニエ/メヴィス&ヴァン・デューセン/ロクサンヌ・メレ/BAD Studio/三重野龍/惣田紗希/アバケ&セーラ・ガルシン/田中義久/IN-FO.CO/シノフィル旅団/マティアス・シュバイツァー/パク・シンウ/栗原幸治/ファネット・メリエ/Atelier Baudelaire×General Public Studio/Information Office/シラーズ・アブダラヒ・ガラーブ/大原大次郎/FISK/橋詰宗/Traduttore, traditore/Omnivore, Inc/リチャード・ニーセン/ジャン=クロード・キアナレ/Studio Remote/ベニー・ヴァン・デン・ムウーレングラス-ヴランク/クリス・ハマモト&ジョン・スエダ,バートン・ハセベ/Our Polite Society/New Documents/the Rodina/イエン・ライナム/Colpa/ヤンギファン・ドン/ミンギョン・キム,ジェームズ・チェ/髙田唯/ラモン・テハーダ/León Muñoz Santini Studio/ローラ・クーンズ,ミンディ・セウ

寄稿ポスター解説,寄稿者略歴

「Which mirror do you want to lick?」メルボルン版ブックレット
解説・日本語対訳

[綴じ込み冊子]
「Which mirror do you want to lick?」メルボルン版
編集・デザイン:展覧会キュレーションチーム
文:ジョン・スエダ
撮影:トビアス・ティッツ

II
データジャーナリズムとデザイン

協力:永原康史,渡部千春,河内秀子

日経ビジュアルデータ(日本経済新聞)
インタビュー:板津直快,鎌田健一郎(日本経済新聞社)

ニューヨーク・タイムズ
インタビュー:ウィルソン・アンドリュース(ニューヨーク・タイムズ)

サウスチャイナ・モーニング・ポスト
インタビュー:ダレン・ロング(サウスチャイナ・モーニング・ポスト)

デジタルメディア時代の報道とグラフィック
――ニュース,データ,ヴィジュアリゼーション

文:永原康史

インフォグラフィックのスペクタクル
文:大山顕


アイコンは機能する ソフトウェアにおける労働と視覚的抽象化

文:デイヴィッド・カテリーニ

制作活動にとどまらず,研究 ,執筆 ,収集 ,記録など横断的かつ実践的なデザイン教育により多数 のデザイナーを輩出するカリフォルニア芸術大学(CalArts)。本稿は,同学を今年修了し,ソフトウェアのインターフェイスに関する研究活動を行ってきた著者によるエッセイだ。ソフトウェアの「アイコン」は,私たちユーザーにとってはコンピュータと自身とをつなぐ最初の入口となるが,普段ほぼ無意識的にクリックをしているピクセル画像について,その由来やデザイン的な機能について考える人は少ないだろう。それらは,ソフトウェアの本質を正しく表象しているものなのか。デスクトップを介したオンラ インのコミュニケーションが 常態化するいま,スクリーンというもっとも身近な景色についても意識を向ける必要があるのかもしれない。


戸田ツトム 背景を眼差すデザイン

デザイン・構成:長田年伸
撮影:青柳敏史
協力:戸田ツトム事務所+今垣知沙子

2019年末,ひとりのデザイナーが仕事から退いた。
 戸田ツトム(1951年生まれ)である。桑沢デザイン研究所での松岡正剛との出会いにより,1974年に工作舎に参加。伝説的雑誌『遊』のデザインに携わる。77年に独立すると,寺山修司率いる劇団「天井桟敷」の公演ポスターのデザインで頭角を現し,80年代にはエディトリアルデザインを中心に仕事を集める。以後,だれよりも早く書籍・雑誌制作を完全コンピュータ化し,日本におけるデスクトップ・パブリッシングの先鞭をつけた。コンピュータが切り拓いたあらたな可能性を突き詰めた表現は,80年代後半から90年代にかけて,おもに現代思想を中心とした人文書の装丁やエディトリアルデザインに結実し,ひとつのメルクマールとなる。その重層的・多層的なグラフィズムは同世代のみならず後進にも多大な影響を与えた。
 本記事では,だれよりもながく戸田と対話を重ねてきた鈴木一誌に取材し,2000年代以降に戸田が展開したエディトリアルデザインの本質と,戸田が見据えていたものについて考察する。

「いつも背景を見るのを忘れないようにしていた」――鈴木一誌へのインタビュー
聞き手:長田年伸

[綴じ込み冊子]
『デザインの種』のコツとツボ 戸田ツトム+鈴木一誌
文:鈴木一誌


視えないもの,無意識の形態 倉嶌隆広インタビュー

構成:長田年伸
デザイン:阿部宏史/print gallery Tokyo,守屋圭
写真:田巻海(p.169, pp.174-175)

1970年生まれの倉嶌隆広は,武蔵野美術大学でグラフィックデザインを学んだあと,東京の広告代理店でアートディレクターを務め,幅広くクライアントワークを手がけてきた。その一方で自主制作として,印刷された抽象図形の上に付属のシートを重ねると,モワレパターンが出現し動き出す錯視を利用した作品を発表している。
 そのおもしろさもさることながら,作品と対峙することで,パターンや運動性が情緒に働きかけてくることにこそ,倉嶌の作品体験の魅力がある。2020年3月14日(土)から白金・プリントギャラリーで開催された個展〈moiré motion emotion〉は,新型コロナウイルスの影響を受け,惜しくも開催から1週間程度で延期・中止を余儀なくされた。本稿では,倉嶌のこれまでの活動を本人による解説をもとに振り返りながら,この展覧会と創作の主題について話を聞いた。


[対談]Noritake×大原大次郎 8年越しの中間報告

シンプルなモノクロ表現によるイラストレーションで知られ,プロダクト制作をはじめクライアントワークを超えた独自の活動をみせるイラストレーターNoritake。文字や身体性をテーマにインディペンデントシーンからポピュラーカルチャーを横断して活動するグラフィックデザイナー大原大次郎。経済や文化のグローバル化やスマートフォンの普及による社会構造の変化,東日本大震災や新型コロナウイルス感染症をはじめとする災害など,激動する2010年代を通じてそれぞれの探求を続けてきた二人が,今ここで制作を続けることについて対話する。


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